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このたびの東日本大震災により亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災された皆様、そのご家族の方々に対しまして、心よりお見舞い申し上げます。一日も早い安全と復旧復興を祈念いたしております。
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日本の原発事故は、海外の原子力発電に対する政策・姿勢にも影響を与えています。
アメリカは、世界の中で最も原子力発電の発電量の多い国です。そのアメリカでは、稼動している104基の原子炉を、90日間で再検討(Review)することにしています。
アメリカにおいては、 特に2つの観点からの懸念が出てきています。1つは、福島第一発電所の第一・第二号機で使われていたものと同じ、沸騰水型の古いデザインの炉についての懸念です。同じ又は類似デザインの原子炉はアメリカ国内に23あり、老朽化等も心配されています。懸念の声が大きいプラントの例として、1972年から運転しているVermont Yankee Plant等があります。2つ目の観点は、地震の起こり得る地方のプラントに対する懸念です。例えば、地震の発生する可能性が大きいカリフォルニアに位置する、Diable Canyon PlantやSan Onothe Plant 、そしてニューヨーク市から40マイル、2つの活断層の近くに位置する Indian Point Plant 等に対して対策強化を求める声が大きくなっています。
ヨーロッパはどうでしょうか。143基の原子炉が稼動しているヨーロッパでは、EUが 緊急会議を行い、域内の原子力発電プラントのセキュリティチェックに関して方針を話し合いました。
原子力を制限する動きは、特にドイツやオーストリアが主導しています。ドイツは未だ電力の4分の1を原子力に頼っているものの、昨年秋に合意された原子力発電所の稼働期間を延長する計画を3ヶ月停止し、7つの古い原子炉のシャットダウンを迅速に行いました。今回、全ヨーロッパにおける原子力発電プラントのセキュリティチェックを求めてきたオーストリアは、1970年後半より原子力発電を禁止しています。
一方で、自国に58の原子炉を持ち、75%の電力を原子力から賄い、原子力発電技術の輸出を主力産業としているフランス、そして新規プラント建設を計画中のイギリスは、温暖化ガス削減と化石燃料からの脱却を唱えて原子力政策を進めてきた背景があり、ドイツやオーストリアとは立場が異なります。ちなみに、外国から使用済み核燃料を受け入れて再処理が可能な施設を持つのはフランスとイギリスのみです。尚、フランスは、今回の事故を受けて逆に、自国の原子力発電技術の安全性を示す良い機会と捉えているようです。
ヨーロッパでは、国同士が隣接しているため、一国での事故が近隣国にも被害を与える可能性があり、一国内の問題では済まないのが課題です。(例えば、フランスで最も古いFressenheim Plantについて、スイスのBasel市(35km離れている)がフランス政府にシャットダウンを求めている事例もあります。)その一方で、国によって原子力発電に対する立場が異なるため、議論の集約は難しく、どのようなセキュリティチェックをどのように行うのか、といったところには踏み込めておらず、EUの指針を基に各国が自主的に行うことになる模様です。
さて、こういった稼働中の原子力発電所の見直しが進む一方で、現在建設中又は計画中の原子力発電所にも影響を与える可能性があります。
上図は、現在建設中の原子炉の国別内訳を示しています。現在建設中の62の原子炉の内、3分の2はアジアにおける建設となっています。特に中国は27の原子炉を建設中ですが、新規の原子力発電所の運転開始を一時停止し、再検討(Review)することが決まっています。
10基を建設中のロシアは、今のところ見直しを行っていません。既に32基の原子炉が運転しているロシアは、電力の18%を原子力で賄っており、その分生産する天然ガスを自国ではなく、原子力発電停止により需要増加が推定されるヨーロッパや日本への輸出に回すことができます。
3月18日付けのファイナンシャルタイムズによると、2011年には、天然ガスの供給が十分にあるため、ガス価格に対する日本の原発事故の与える影響は限定的だが、2012−2014年には、受給が逼迫してガス価格の上昇が起こる可能性があるとのことです。また、同紙によれば、原発事故の影に隠れていますが、日本では震災の影響で8.2GW相当の石炭火力が停止しているため、日本の石炭の輸入が減り、石炭価格の下落を招く可能性があります。中国は石炭からの脱却を唱えて原子力を増やしていますが、石炭の価格が安くなれば、石炭の輸入を増やすことも考えられます。また、時を同じくして進んでいる、中東情勢の混迷プラス投機による石油価格の上昇も見過ごせません。
原子力の動きは、化石燃料の需給や、価格の変動にも影響を与え、そしてそのことがまた、世界各国のエネルギー政策に影響を与えます。エネルギー政策においては資源に係る費用のみでなく、エネルギー・セキュリティや、自国の産業育成等の要因も考慮されますので、外交や経済と密接に結びついています。今後とも各国の動き、そして再生可能エネルギーも含めた様々なエネルギーリソースへの波及効果を、追いかけていきたいと考えています。
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